教育委員長エッセイ「自分の目で見て判断する」
教育委員長エッセイ「文化薫る11月」
自分の目で見て判断する
アビニョン駅で、パリ行きのTGVがプラットフォームに入ってくるのを待っている時、突然、鋭くけたたましい声に「ピクッ」としました。声のした方を見ると、年配の女性が厳しい顔で4,5歳くらいの男の子を叱っていました。叱られた子は半べそをかいてうなだれていました。私は何事が起きたのかわからず、隣りの人に聞くと、フォームの黄色の線から出て走り回っていたので叱責されたとのことでした。その子の周りにいた人たちはすぐに状況を把握したらしく、その様子を静かに見守っているようでした。しばらくしてからその年配の女性(おそらくその子の祖母だろうと思われます。)が笑顔でやさしく諭しながらその子を抱きしめると、その子にも笑顔が戻ってきました。
以前からヨーロッパ人は子供を厳しく躾けると聞いていたのですが、その時まさにその現場を見て納得しました。年配の女性は、1つには、この子がルールを守らなかったこと、2つには、その子の行為が生命の危険を伴うことであったことから、なおさら厳しく叱ったのでしょう。
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私はこれまでパリを数回訪問する機会がありました。はじめは、フランス人は気位が高く、外国人に対してもフランス語でしか話しをしないとか、いつもすましているなどと聞き、心配することも多々ありました。でも、私たちが接したフランス人は初対面でも、にこにこしながら英語で話しかけてくれ、私たちはとてもフレンドリーな印象を持ちました。妻はトイレに入っていると、見知らぬフランスの女性がドアをノックして、無くなっていたトイレットペーパーをわざわざ渡してくれたと感動していたことがありました。また、地下鉄のチケット自動販売機の使い方がわからずに戸惑っていると、年配の紳士が、お手伝いしましょうかと英語で話しかけてくれたこともありました。
何度かフランス人と触れ合い、私が長年フランス人に抱いていたイメージとあまりに違うことに驚きました。
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退職後、英語教員として現職の時にはできなかった旅行をしようと思い、ヨーロッパを中心に訪問してきました。健康な間にできるだけ遠くに旅したい、世界遺産を巡りたい、楽しい思い出を作りたいなど理由はいくつかありますが、いちばんの理由は、様々な国の状況や人々の日常の様子に触れたいということです。今まで聞いたり、本で読んだり、テレビで見たりしたことを自分の目で確かめたいのです。短期間の旅ですが、その旅を通して、今までフランス人をはじめヨーロッパの国々や人々に対してずいぶん間違った思い込みをしていたことがあったと気づきました。
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日本での日常生活においても、私たちは予見やあやふやな知識で物事を断じることがあるのではないでしょうか。よく言われる風評被害などその最たるものだと思います。この年になって、私自身、実際に自分が見てもいないのに、他人の言葉だけで軽々に物事を判断することがあったように思い、ずいぶんと反省しているところです。ただし、もちろんすべてのことを自分の目で見ることは不可能ですし、他人の言葉や情報はたいていの場合は事実であり尊重しなければならないことは承知していますが・・・。しかし、70有余年の私の人生経験から「何事も自分の目で見て判断することがまず第一である」「百聞は一見に如かず」という言葉は私の人生訓の一つになっています。?
今後の教育は、小学校3年生から外国語学習が入ってくるなどますますグローバル化が進みます。そうした社会に生きる子どもたちには、自分の目で見て判断する力を是非つけたいと考えます。
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平成26年8月12日
?????????????????????????????????????????????? 倉吉市教育委員会教育委員長 伊藤 哲雄