館長コラム (17)(2020.10) 今年度も半分が過ぎ去ってしまいました。早いものです。10月に入ってキンモクセイの香りがたち始めました。いつもなら、彼岸頃に秋の訪れを告げてくれていたのに今年は少し遅いようです。ヒガンバナも彼岸が終わってから道端で盛んに咲いていました。近年、やたらと多い猛暑、豪雨の自然災害に加え、今年は、新型コロナウイルスの感染の恐怖で日常生活が混乱をきたしています。 全国の多くの博物館、美術館と同じく倉吉博物館の催事も、今年は随分と変更を余儀なくされました。春の特別展「平山郁夫が描く世界遺産」展も会期中盤で休止しました。その他、毎年恒例の倉吉市美術展覧会や自然科学展も中止に至っています。 また、4年に一度開催する日本画の特別展「菅楯彦大賞展」は来年に延期しました。推薦委員が作家を選び、審査委員が最終的に出品作家を指名選定するシステムの同展は、1年前に作家に制作を依頼します。第10回を迎える今回は指名作家37人に出品をお願いしていました。しかし、コロナ禍で創作もままならないだろう、審査会の開催も難しかろうと考え、令和3年に延期したものです。 10月末からは、年度当初の展示計画に戻ります。11月には第64回鳥取県美術展覧会が開幕し、久々に賑わいが戻ってくるものと思います。ただし、マスク着用、検温チェック、そしてソーシャルディスタンスは、これまでどおりお願いします。 9月25日、倉吉博物館に哀しい知らせが入りました。重要無形文化財保持者(木工芸)で倉吉市名誉市民の大坂弘道さんご逝去の報です。83歳でした。倉吉市出身で大学卒業後に独学で木工芸を修められた先生は、正倉院宝物の輝きに憧れて研究を重ね、独自の世界を造り上げてこられました。 平成9年には、鳥取県初のいわゆる「人間国宝」に認定されました。同じ年の夏に、地元倉吉に凱旋され市長表敬された際の自信に満ちた姿を当時の「倉吉市報」が伝えています。 平成26年、特別展「大坂弘道の世界」展を開催することとなり、準備のため先生と幾度となく打合せをしました。毎回、何時間にも及び、話の半分以上はいつも倉吉のことです。故郷をこよなく愛した人でした。 特別展の翌年には、倉吉市名誉市民の称号を受けられました。故郷が自分の創作活動を祝ってくれた。満面の笑みが今も鮮明に浮かびます。これを機に創作意欲に火がつき、80歳を超えてなお新作に挑んでおられました。少しでも故郷に作品を残そうとの思いでした。特別展後に作品10点を寄贈いただき、鳥取県立美術館が倉吉に整備されることを祈念してさらに68点、鳥取県中部地震被災後に復興を願い6点、現在、倉吉博物館は大坂弘道先生の作品を84点を収蔵し、年間を通じて5~7点ずつ入れ替えて展示しています。 ほぼ独学で木工芸の道を歩み、常に感覚を研ぎ澄まされてきた大坂弘道先生。強い個性は、まるで身を守る鎧のようでした。今は、素になり、ゆっくりお休みください。本当にご苦労さまでした。有り難うございました。 館長 根鈴輝雄