絵画鑑賞の秋 特別展「生誕100年 桑野博利展」のすすめ
猛暑続きの今夏は、立秋が過ぎた後の残暑も厳しく、9月に入ってもなお、30度を越える真夏日がありました。それでも朝夕は、少し寒いぐらいに気温が下がり、夏バテ気味だった身体も少しずつ、体型が秋仕様にと変化し始めています。
この時期、毎年、どこからとなく香るモクセイの匂いを今年はあまり感じることがなかっ たような気がします。皆さんはどうでしたでしょうか。博物館の中庭にあるギンモクセイも、 木のそばまで近寄らないと匂いを感じないほどかすかな香り。毎年、口ずさむ「秋来ぬと 目にはさやかに見えねども・・・」の句もいっこうに頭に浮かびませんでした。
さて、現在、開催中の特別展「生誕100年 桑野博利展」も終盤に近づいてきました。郷土作家シリーズNo.19として取り上げた桑野博利さんは、倉吉市出身の日本画家です。幼いころから絵が上手で、旧制中学時代に出会った美術教師中井金三さんに絵画を学びます。桑野さんは、郷土の先輩 前田寛治さんに憧れて画家を志します。中学卒業後は、京都市立絵画専門学校に進み、ここでの優れた教授陣との出会いが桑野さんを画家へと育てていきます。
桑野さんは、日本画家でしたが素描の重要性を訴え、時間を惜しんでは画帳に筆を走らせ ました。素描群をコラージュして展覧会にも出品しました。この素描にかける情熱と作品が、小野竹喬さんに認められ、小野さんが選定して「素描集」を刊行します。さらに、『街道を ゆく』の挿絵で、須田剋太さんの後任を探していた司馬遼太郎さんの目にとまり「本所深川 散歩」「神田界隈」を担当します。しかし、司馬遼太郎さんとの同行取材は神田限りで、病に倒れてしまいます。77歳のことです。以後、ほとんど絵筆を握ることなく94歳の天寿を全うします。
このたびの生誕100年を記念して開催した展覧会では、桑野さんの画業全体を紹介します。幼い頃の絵や絵画専門学校の卒業制作で描いた作品、そして、長らく倉吉市長室に掲げられ ていた郷土のシンボル打吹山を独特の筆致で表した作品などを一堂に展示しています。
もちろん、素描もたくさん展示しています。桑野さん自身のコラージュ。娘さんでやはり日本画家の桑野むつ子さんのコラージュ。そして担当学芸員も四畳半の広さに素描260枚をコラージュしました。いつもとは違う絵画展となっています。
これまでご鑑賞いただいた皆様からも、「倉吉にこんなすばらしい作家がいたことをはじ めて知った。」「見ごたえのある展覧会で他の人にも紹介したい。」など好評をいただいて います。
どうぞ、お見逃しなく是非この機会に桑野作品をご覧ください。10月6日まで開催してい ます。
なお、10月12日からは美術部門所蔵品展とリンクした「国展・とっとりの会」を開催しま す。鳥取県在住の国画会出品者を中心とした展覧会です。絵画、版画、彫刻、工芸、写真を展示します。さらに、11月1日からは県展が始まります。芸術の秋をお楽しみください。
館長 根鈴輝雄