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更新日:2018年3月5日

旅立ちの時

厳しい寒さもいつしか柔らかな春の陽ざしになってきました。先日、市内の学校訪問の途中、小鴨橋から青く澄み渡った空に輝く白銀の大山を見て、神々しく思いました。
 汽車の窓はるかに北に故郷の山見えくれば襟を正すも
歌人の石川啄木は、懐かしいふるさとの山をこのように詠んでいます。ふるさとの山に対して、「襟を正す」とはどういうことでしょう。「襟を立てる?」そんな生徒もいましたが(笑)、襟を正すとは、自己の乱れた衣服や姿勢を整えること、それまでの態度を改めて気持ちを引き締めることです。襟を正すには、自分の姿を映し出す鏡になるものが必要です。
 人はふるさとの山に何か崇高なもの、畏敬の念を覚えますが、大山も古くから「神」として崇められてきました。倉吉から見る大山は、南に烏ヶ山(からすがせん)、蒜山(ひるぜん)三座。北には大山連山が並んでいます。人生には多くの困難があります。疲れたとき、嫌になったとき、頑張ろうという気力が失せたとき、啄木がふるさとの山に抱いた想いと同じように、ふるさと倉吉から眺めた大山を思い浮かべて、大山を鏡として襟を正し、己の求めるものを真摯に求めてほしいと思います。

 平成23年に倉吉に行幸いただいた今上天皇の御退位により、平成から新たな年号となります。倉吉市の教育にとって、平成はどのような時代だったのでしょうか。景気が大きく後退し厳しい財政状況で、思い切った新規事業もできない中で、上北条小学校の新設、河北小・高城小・小鴨小学校の建替、図書館・倉吉パークスクウェアの建設、全国高校総体(剣道・自転車)の開催、「水と緑と文化の町」として小学校金管バンドや音楽活動、トリエンナーレ美術賞など取り組んできました。平成17年には倉吉市と関金町の合併もあり、全市一斉学校公開、教育を考える会、学校評議員制度導入など、時代の流れに応じて、新たな事業が試みられています。
 この10年の倉吉市教育を振り返ってみますと、大きく3つの流れと1つの転機があります。
1つ目は、倉吉市教育の基盤づくりです。教育基本法の改正を受け、これからの倉吉の教育をどうするのかを考えるため、「明日の倉吉を考える委員会提言」(平成20~21年)が出されました。これに基づき、倉吉市の教育理念・教育目標、教育内容等を盛り込んだ「倉吉市教育振興基本計画」(22~23年)を策定しました。それに基づき、「地域学校委員会(倉吉版コミュニティ・スクール)」の創設、子どもたちの提言による「倉吉淀屋サミット(菜の花プロジェクト)」など学校と地域の連携の推進に取り組み、倉吉に愛着と誇りを持つ子どもの育成をめざして「土曜授業」の導入、「くらよし風土記」の発刊、山上憶良短歌賞の創設などに取り組みました。
2つ目は、学校や社会教育施設等の改修(平成23~28年)です。学校施設の耐震化については、東日本大震災の発生により計画を前倒ししました。成徳小校舎や上小鴨小・上灘小体育館の建替を含めた学校の耐震化(21棟)を進め、河北中学校の移転、そして、陸上競技場・野球場・武道館、温水プールなどスポーツ施設の改修を進めました。市民や子どもたちにとって便利になるとともに、学校耐震化の加速化により鳥取県中部地震では子どもたちの命を守ることができました。
 3つ目は、少子化に対応するための「倉吉市立小・中学校の適正配置」です。「明日の倉吉を考える委員会提言」の中の「子どもたちが望ましい成長をするための学校・学級の適正な規模についての検討を行うこと」を受けて、平成23年に「倉吉市立小中学校適正配置」答申をいただきました。地区別説明会や市民シンポジウムの開催を通して、平成28年に「倉吉市立小学校適正配置推進計画」を策定しました。平成28年4月には、関金小学校と山守小学校が統合し、新しい関金小学校として、新しい校章・校歌を制定して開校しました。
 そして、一つの転機は平成28年10月21日の鳥取県中部地震です。震度6弱の地震は、幸いにも人命を奪うことはなかったものの、1万棟もの建物に甚大な被害を与えました。学校施設も大きな被害を受け、給食センターも修理に半年間を要し、他町や鳥取短大の協力を得て対応しました。公民館、スポーツ施設の他、今や倉吉の代名詞となっている白壁土蔵群も大きな被害を受けました。これらの復旧・復興の予算は、教育委員会だけでも10数億円、市役所の修理等も含めた倉吉市全体の予算は100億円を越すものとなります。

 平成の時代は30年で終わります。しかし、私たちのふるさと「倉吉」を持続可能な都市としていくためには、たいへん厳しい財政の中で取り組むべき事業の選択と集中が必要だと思います。大きな地震被害に遭った倉吉市は、「あれもこれも」という予算は組めません。「あれか、これか」という選択をしなければなりません。
 先般まとめられた「第3次行政財政改革計画」では、例えば、倉吉市が保有する現存施設を更新・維持管理をしていけば、年間約60 億円の費用が必要(公共施設等総合管理計画)とされています。今後は、持続可能な財政運営のもと、効率的、効果的な行政経営を行っていくために、事業、業務の目的の妥当性・必要性、事業の有効性・効果を検証しながら、効率性や、公平性、受益・費用負担適正化などを考慮していく必要があります。また、組織体制も住民ニーズや施策方針に沿った検討が必要と述べられています。今こそ、倉吉市全体を見渡す立場から、何を選び、何を捨てるのかを選択をしていかなければなりません。

 今後、倉吉市教育行政が取り組むべき課題は、大きく2つです。
 図のように、日本の人口は1900年から2000年までの100年で急速に増加し、2100年に向けて急激に減少します。そして、小学校の児童数は、1953年の第一の波と1976年の第二の波を経て、次第に減少していきます。それに対して、学校数はあまり減少していません。倉吉市の人口や児童数も全国と同じ傾向で、倉吉市の推計値は2040年37,030人、年少人口(15歳未満)4,000人(国立社会保障・人口問題研究所)という数字が出ています。現在、1学年約420人の児童数が、2030年には約330人、2040年には約270人に減少してしまいます。

日本の人口.png
公立学校児童数・学校数.png

こうした少子高齢化社会に対応していくために、平成24年に「倉吉市立小・中学校の適正配置」が提案されました。平成28年4月に統合した関金小学校はその効果が表れています。先進の事例に学びながら、地域・保護者・学校の代表からなる協議会で適正配置について課題を明確化し、市民の議論をまとめていくことが必要です。
 次に、「地域に誇りと愛着を持つ次世代育成」です。ここ数年、「菜の花プロジェクト」の取り組みや各地区の運動会での中学生ボランティアなど、子どもたちが地域の自然・伝統・文化を学び、地域づくりに参加することにより、地域に誇りと愛着を持つ次世代育成の動きができつつあります。年末に取り組んだ「倉吉ハイスクールフォーラム」では、倉吉市にある高校の活動の発表をとおして地域とのつながりを模索しました。このように、倉吉で育つ小・中・高校生がそれぞれに議論し、知恵を出し、活動をする中で、学校と地域が連携して、ふるさと倉吉に誇りと愛着を持つ子どもを育成し、次代を担う地域の宝を育てていくことが必要です。

 3月は、新たな世界への旅立ちの時です。小・中・高とそれぞれ卒業式があり、子どもたちは新しい世界に飛び立っていきます。また、25日には倉吉市長選挙もあり、新しい倉吉市政の出発となります。そして、倉吉市教育委員会も新しい教育長を迎えることとなります。平成21年から9年間の教育行政を担わせて戴きました。倉吉にとってより良い教育行政とは何か、それを支える財政を考えながら打吹山麓の庁舎に通いました。教育行政はこれで良いのかと、倉吉のシンボルである打吹山を見上げ、襟を正すことも度々ありました。
 皆様方のご理解とご支援をいただき深く感謝申し上げますとともに、我がふるさと倉吉の新たな時代への旅立ちを祈念いたします。

 平成30年3月1日

倉吉市教育委員会教育長 福井伸一郎